月は紅、空は紫
「熱は下がったと思います。念のため診療所に連れて行ってあげると良いでしょう――」
小夏の額に手を当てて熱を測り、口に耳を近付けて呼吸の速さを確かめる彦一たちに向かって、清空はそう声を掛けた。
清空が言う通り、不思議なことに先ほどまではあれだけ苦しそうにしていた小夏の呼吸は穏やかなものに戻っていて、額に添えた手からは通常の体温である感覚が伝わってくる。
本当に、先ほどまでの危篤状態が嘘であったかのように――小夏はただ単に眠っているだけのような状態になってしまっていた――。
「それでは――お邪魔をしてしまい申し訳ない」
そう言いながら、清空は地面に落ちてしまった手拭いを拾い、踵を返して長屋にある自分の部屋に戻ろうとした。
元の通りとなった小夏を安心しながらも唖然と見つめる一団の横を通り過ぎながら、小夏の傍らにしゃがみ込むお民をチラリと横目で見て、(綺麗な人だな――)と短くそう思う。
薄い桃色の振袖を着た、肌の白い何とも言えぬ爽やかな色香が漂う。
きっと戸板に寝かされている少女の妹なのだろう。
歳の頃はきっと清空と同じぐらいと見えた。
(まあ――自分には縁の無い人だろうな)
仄かに後ろ髪を引かれるような慕情を抱きながらも、清空はその場を立ち去ろうとした――。
小夏の額に手を当てて熱を測り、口に耳を近付けて呼吸の速さを確かめる彦一たちに向かって、清空はそう声を掛けた。
清空が言う通り、不思議なことに先ほどまではあれだけ苦しそうにしていた小夏の呼吸は穏やかなものに戻っていて、額に添えた手からは通常の体温である感覚が伝わってくる。
本当に、先ほどまでの危篤状態が嘘であったかのように――小夏はただ単に眠っているだけのような状態になってしまっていた――。
「それでは――お邪魔をしてしまい申し訳ない」
そう言いながら、清空は地面に落ちてしまった手拭いを拾い、踵を返して長屋にある自分の部屋に戻ろうとした。
元の通りとなった小夏を安心しながらも唖然と見つめる一団の横を通り過ぎながら、小夏の傍らにしゃがみ込むお民をチラリと横目で見て、(綺麗な人だな――)と短くそう思う。
薄い桃色の振袖を着た、肌の白い何とも言えぬ爽やかな色香が漂う。
きっと戸板に寝かされている少女の妹なのだろう。
歳の頃はきっと清空と同じぐらいと見えた。
(まあ――自分には縁の無い人だろうな)
仄かに後ろ髪を引かれるような慕情を抱きながらも、清空はその場を立ち去ろうとした――。