月は紅、空は紫
 それでは、但馬屋の主人である彦一が出資し、清空が運営している『空診療所』はどうであったか。
 実は、『空診療所』は他の診療所とは少し経営実態が違ったのである。

 まず、往診を中心の業務としていないという点である。
 この時代の医者というのは往診するのが常である。
 現代のように、建物を中心として患者が来るというのはかなり変わったスタイルなのだ。
 診療所に担ぎ込まれるのは、怪我などによる急患であり、診療所という場所は現代の救急病院に近いような存在だった。

 しかし、清空が運営する『空診療所』は少し事情が違った。
 往診というものをしていないのである。
 病気や怪我になった患者が診療所に来て、治療を受けたり薬を処方されたりする。極めて現代の病院に近い形式で運営されていたのだ。

 他の診療所との和を乱さぬために、相場としての薬代を受け取ることはしていたのだが、それでも清空の腕の良さは近隣に知れ渡り、清空が診療所を開いている時間となる夕方には噂を聞きつけた庶民が診療所の前に列を成していた。

 なぜ、夕方に診療所の前に長蛇の列が出来てしまうのか?
 これには、清空のライフスタイルが大いに関係していた。
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