月は紅、空は紫
「わっぱ! 人に恥をかかせて謝りもせぬとは! そこに居直れ、成敗してくれるわ!!」

――清空の心配は、最悪の形で的中した。

 小夏が小岩の一人芝居にキョトンとしていると――勝手にエスカレートした小岩は一人で芝居の内容をクライマックスの部分に持って行ってしまったのである。

 周りの通行人が野次馬となって囲み始める中で、小岩は得意になって腰の物を抜き放った。
 造りの甘い、数打ちであろう刀の鈍い輝きが夕日を反射させる。
 そして、そのまま分別も無く、小岩は小夏に向かって刀を振り下ろそうとした――が、小岩の芝居はそこで終幕を迎える結果となった。

 刀を振り下ろそうとした瞬間に――清空が小岩の肩の辺りを懐にあった扇子で突き、小岩の動きを完全に制したのである。
 周囲にも見えぬような動きで、あっという間に小岩の懐に飛び込んだ。
 その動きの最中には、懐から扇子を取り出し、腕の動きを司る経絡を寸分たがわぬ正確さで軽く『トンッ』と突き、動きを封じられた小岩本人でさえ何が起こったのか理解も出来ぬほどの速度でもって清空は小岩の動きを封じたのである。
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