月は紅、空は紫
「このまま扇子から手刀に替えて、貴方を失神させることも可能ですが――そうなさるのがお望みですか?」
接近したまま、小声で、しかし小岩にはしっかりと聞こえる大きさの声で清空が呟いた。
一瞬、動きが完全に固まってしまった小岩は――その呟きを合図にして振り上げていた刀を力無く下ろしたのである。
そのまま、扇子を懐にしまい、清空はその場から一歩下がりペコリと一つ、小さくお辞儀をして見せた。
小岩の動きを制した時の、鋭い眼の光はナリを潜め、いつも通りの柔らかい、おっとりとした清空に戻っている。
「それでは――申し訳ありませんでした。さあ、行こうか小夏――」
清空がそう言うと、周囲に出来上がりつつあった、小競り合いを期待していた野次馬は散り散りに解れていく。
清空と小夏は立ち尽くすだけの小岩を置いたまま、その野次馬に紛れるようにして大通りの人の流れに混じって行った。
(――何者だ?)
力無く通りに立ち尽くす小岩の頬を、冷や汗にも似たじっとりと噴き出た汗がつうっと伝った。
刀の一つも持たぬ、医者の格好をした優男――しかし、動きを制された時に小岩が感じた殺気は――明らかに本物で、小岩は自分が命拾いをした、という感覚が自分の中に広がるのを感じていた。
接近したまま、小声で、しかし小岩にはしっかりと聞こえる大きさの声で清空が呟いた。
一瞬、動きが完全に固まってしまった小岩は――その呟きを合図にして振り上げていた刀を力無く下ろしたのである。
そのまま、扇子を懐にしまい、清空はその場から一歩下がりペコリと一つ、小さくお辞儀をして見せた。
小岩の動きを制した時の、鋭い眼の光はナリを潜め、いつも通りの柔らかい、おっとりとした清空に戻っている。
「それでは――申し訳ありませんでした。さあ、行こうか小夏――」
清空がそう言うと、周囲に出来上がりつつあった、小競り合いを期待していた野次馬は散り散りに解れていく。
清空と小夏は立ち尽くすだけの小岩を置いたまま、その野次馬に紛れるようにして大通りの人の流れに混じって行った。
(――何者だ?)
力無く通りに立ち尽くす小岩の頬を、冷や汗にも似たじっとりと噴き出た汗がつうっと伝った。
刀の一つも持たぬ、医者の格好をした優男――しかし、動きを制された時に小岩が感じた殺気は――明らかに本物で、小岩は自分が命拾いをした、という感覚が自分の中に広がるのを感じていた。