月は紅、空は紫
「熱ちぃ!!」
空診療所の中に、曲げ物屋の佐太郎が叫ぶ声が響き渡った。
手首の痛みを抑える為に、肩から三寸ほど下がった位置、『雲門』の経絡に灸を据えようとしていたのだが――清空の手元が狂ったのである。
経絡を外れた、火の点いたもぐさが佐太郎の腕を転がり、静かに深々と燃える火が佐太郎の腕を焦がす。
「ああっ! すいません!」
清空が慌ててもぐさを拾い上げ、佐太郎を痛みの為に右手で左の肩口を押さえる。
鈍い痛みが、佐太郎の脳に信号を送り、佐太郎自身は腕に火傷を負ってしまったであろうことを確信する。
「痛てて……気を付けてくれよ。診療所で新しい怪我を貰ったなんて笑い話にもなりやしない……」
腕をさすりながら、佐太郎は清空に苦情を漏らす。
それを苦笑いで返すしか清空には出来なかった。
「しかし、ボーっとしちまってどうしたんです?」
「ええ……いや、すいませんね」
佐太郎の質問を、気が付かぬフリではぐらかし、清空は新たなもぐさに火を点けた。
清空の考え事とは他でもない……『仁左衛門殺し』の下手人への違和感、それが未だに清空の頭の中に、薄い膜のように張り付いて頭から離れなかったのだ。
空診療所の中に、曲げ物屋の佐太郎が叫ぶ声が響き渡った。
手首の痛みを抑える為に、肩から三寸ほど下がった位置、『雲門』の経絡に灸を据えようとしていたのだが――清空の手元が狂ったのである。
経絡を外れた、火の点いたもぐさが佐太郎の腕を転がり、静かに深々と燃える火が佐太郎の腕を焦がす。
「ああっ! すいません!」
清空が慌ててもぐさを拾い上げ、佐太郎を痛みの為に右手で左の肩口を押さえる。
鈍い痛みが、佐太郎の脳に信号を送り、佐太郎自身は腕に火傷を負ってしまったであろうことを確信する。
「痛てて……気を付けてくれよ。診療所で新しい怪我を貰ったなんて笑い話にもなりやしない……」
腕をさすりながら、佐太郎は清空に苦情を漏らす。
それを苦笑いで返すしか清空には出来なかった。
「しかし、ボーっとしちまってどうしたんです?」
「ええ……いや、すいませんね」
佐太郎の質問を、気が付かぬフリではぐらかし、清空は新たなもぐさに火を点けた。
清空の考え事とは他でもない……『仁左衛門殺し』の下手人への違和感、それが未だに清空の頭の中に、薄い膜のように張り付いて頭から離れなかったのだ。