月は紅、空は紫
 刀の矛盾に故人への扱いのぞんざいさ、それなのに仇討ちまでして下手人を挙
げたという対応の不明瞭さが在った。

 そこに加えて、中村たち御役所では捜査の手を伸ばせないという状況がある。
 清空はせめて『自分が抱く違和感』だけでも拭い取ってしまおう、そう思いつ
つ『仁左衛門殺し』の現場に出向いて来たのである。

 現場は月明かりだけが照らしており、手元の提灯が無ければ足下さえ危ないよ
うな暗さである。
 仁左衛門が殺された日から凡そ三日、月齢は進み行く時期であるから事件の起
こった当日の夜は、きっと清空が見ているこの景色よりも暗闇だったことは間違
いないだろう。

 河原には秋の涼やかな風が吹き抜けて行く――。

 清空は現場にしゃがみ込み、地面に手を着いてみた。

――そうしてみれば、少しでも事件が起こった時の状態に近付けるか――そう思
ったからである。

 大堰川のほとりは行灯も無く暗い。
 提灯を持っていてもなお、手元より一間ほどの範囲しか見えないのだ。
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