月は紅、空は紫
(これでは……辻斬りが現れても見えないな)

 清空に見えるのは、地面の土ばかりである。
 仮に、向こう側から誰かが歩いて来たとしても、余程近くまで来ないと相手の
姿さえ分からないだろう。

 そのような事を思いながら周囲を観察する――と、清空はあるものを発見した


 それは土手の脇に生えた雑草である。
 土手は誰かの手入れを受けているわけでもなく、元より雑草は生え放題だ。

 しかし――清空の周囲、つまり仁左衛門が殺された現場の周りの草は……背が
低いのである。
 成長が遅いのではない。
 明らかに、何者かによって刈り取られたような跡がある。
 鋭い、鎌のようなもので草は根本近くから切り落とされていた――。

(ここで殺されたことは間違いない……か)

 切り落とされた雑草を確認してから、清空はおもむろに立ち上がった。
 それから、その場で少しだけ考え事をして、清空は一つの確信を得た。

――自分の抱いた違和感は正しかった、と。
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