月は紅、空は紫
 清空の身体を河原の風が撫で付ける。
 清空の内にあった疑惑はもはや確信に変わっていた。

(しかし……何故だ?)

 仁科道場が犯人に不動源之助を仕立て上げた事はせ清空にとってはどうでも良いことである。
 きっと仁科道場にとっては、不動源之助か、それに関係する者が邪魔であり『仁左衛門殺し』を口実として消されたのであろう。
 そのような瑣末な事情など清空にとって知ったことでは無かった。

 だが、清空がこの事件の真犯人と目する者……それが何故このような事件を起こしたのか、どうしても清空にはそれが解せなかった。
 事件の真犯人が仁左衛門を殺した、そこへ至る線がどうしても清空には想像が付かない。

(だが――間違いない)

 確信を掴み、清空は現場を後にして歩き出した。
 足取りに迷いは無く、河原に吹く風に逆らうように真っ直ぐに力強く歩く。
 その表情は――鋭さを纏った厳しいものになっていた。

(仁左衛門の殺された夜――あの夜の月は……紅かった!!)

 清空は決意する。
 その決意とは――清空の使命から来るものである。
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