月は紅、空は紫
 紅い月の夜に、清空は京の町を歩き回る。
 ある夜には嵐山へ、またある夜には鴨川のほとりを。
 清空は捜して歩くのだ――何か異常は無いか、と。

 その見回りは、月が紅い夜には月が西の空に沈むまで続けられる。
 朝日が昇るころに、清空はようやく長屋に帰り、夕方までの眠りに就くのである。

 それは清空の祖父の祖父の……その前、遡っては平安の時代の先祖から一族に伝わる『使命』である。

 鬼を突き、魔を裂く。
 陰陽道が始まった頃より、時代の影より闇の世界の平和を守りし一族。
 千年の古より、一族に一人だけ退魔の力を持って生まれる。

 その者が、一族の使命を背負い、魔都となった京の裏側を守るのだ。
 仁左衛門殺しの真犯人――それは、間違いなく京に巣食う『妖』の一種だった。

 昼間は『あばら長屋』に居を構える医師である。
 しかし――月の紅い夜、清空は京の町を守る剣士に変わる――。
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