月は紅、空は紫
二条通りの一角に、薬問屋が並ぶ場所がある。
京に居を構える医師ならば、この一角に用の無い人間など居ない。
この時代の医師というものは本草学に基づいた東洋医学が主となっている。
解剖学、生理学を用いた西洋医学も基礎的な部分では流入してきてはいたのだが、それはあくまでも一部のごく限られた人間だけが修めている学問であり、広く一般的となるにはまだ時間が必要であった。
清空にしたところで、空診療所では望聞問切の四診、つまり『目で見て』『音や臭い、外的な状態で判断して』『症状を患者に質問して』『脈診と腹診』を基本としてから症状の軽い者には按摩や灸を施して診療代が安く済むようにしているが――それでも、どうしても薬に頼らねばならない患者も存在する。
そのような患者に処方する薬の原料を仕入れるために、夜型人間の清空とはいえども、一ヶ月に二回は昼間に問屋へと仕入れに行かなければならない。
いつもよりもしっかりと総髪を束ね、十徳を羽織り、医師としての外見を整えて二条まで清空は二条まで出て来るのである。
そのようにして、外見だけはしっかりと整えて外出したのだが……当の本人は歩きながら欠伸を出して、どうにも締まらぬ様子であった。
京に居を構える医師ならば、この一角に用の無い人間など居ない。
この時代の医師というものは本草学に基づいた東洋医学が主となっている。
解剖学、生理学を用いた西洋医学も基礎的な部分では流入してきてはいたのだが、それはあくまでも一部のごく限られた人間だけが修めている学問であり、広く一般的となるにはまだ時間が必要であった。
清空にしたところで、空診療所では望聞問切の四診、つまり『目で見て』『音や臭い、外的な状態で判断して』『症状を患者に質問して』『脈診と腹診』を基本としてから症状の軽い者には按摩や灸を施して診療代が安く済むようにしているが――それでも、どうしても薬に頼らねばならない患者も存在する。
そのような患者に処方する薬の原料を仕入れるために、夜型人間の清空とはいえども、一ヶ月に二回は昼間に問屋へと仕入れに行かなければならない。
いつもよりもしっかりと総髪を束ね、十徳を羽織り、医師としての外見を整えて二条まで清空は二条まで出て来るのである。
そのようにして、外見だけはしっかりと整えて外出したのだが……当の本人は歩きながら欠伸を出して、どうにも締まらぬ様子であった。