月は紅、空は紫
「ふぁあ……毎度」
欠伸を噛み殺しながら、薬問屋の玄関を抜けたのだが――どうにも眠気を隠し切れない。
どうせ馴染みの薬問屋であることだし、見得を張るだけ無駄な努力である。
そんな風にタカを括って薬問屋への挨拶もそこそこに店の中へと入った清空であったのだが――一気に眠気を吹っ飛ばされる事になった。
清空が通う薬問屋は二条通りの裏手に入ったところにある小さいが良心的な商売をしている問屋である。
老夫婦が二人で経営しており、清空も診療所を開いた当初から利用している気心の知れた間柄だ。
診療所を開くに当たって、独学で本草学を学んだ清空の助けになってもらったし、現在でも世話になることも多い。
この日も、清空は勉強がてらに老夫婦と世間話をして、夕方近くになれば薬の原料を受け取って帰ろう――そうのんびりとした心構えで店にやって来たのだが――いつもとは様子が違ったのである。
「いらっしゃいませ!」
鈴の鳴るような透き通った声で、ダレきった様相の清空の来店を出迎えたのは――文字通り『目の覚めるような美女』であった。
欠伸を噛み殺しながら、薬問屋の玄関を抜けたのだが――どうにも眠気を隠し切れない。
どうせ馴染みの薬問屋であることだし、見得を張るだけ無駄な努力である。
そんな風にタカを括って薬問屋への挨拶もそこそこに店の中へと入った清空であったのだが――一気に眠気を吹っ飛ばされる事になった。
清空が通う薬問屋は二条通りの裏手に入ったところにある小さいが良心的な商売をしている問屋である。
老夫婦が二人で経営しており、清空も診療所を開いた当初から利用している気心の知れた間柄だ。
診療所を開くに当たって、独学で本草学を学んだ清空の助けになってもらったし、現在でも世話になることも多い。
この日も、清空は勉強がてらに老夫婦と世間話をして、夕方近くになれば薬の原料を受け取って帰ろう――そうのんびりとした心構えで店にやって来たのだが――いつもとは様子が違ったのである。
「いらっしゃいませ!」
鈴の鳴るような透き通った声で、ダレきった様相の清空の来店を出迎えたのは――文字通り『目の覚めるような美女』であった。