月は紅、空は紫
「おや、歳平さん。今日が来る日だったかね」
そう言いながら、『く』の字に曲がった腰で清空に向かって歩いて来る。
この老人、こう見えて若い頃には医師をやっていた。
寄る年波には勝てず、医師を引退した後にはこうして薬問屋を開き、後進の医師のちょっとした指導などもやっている。
もっとも、ツルツルに禿げ上がった頭は、本人は『医者をやってた時の名残』と言い張るのだが、誰が見ても毛根の一つも残っているような頭には見えず、この老人の妻であるご内儀さんに聞いたところで『頭を剃っている姿は、ここ二十年は見たことがない』という位なので、公平に見ても年齢による禿頭なのだろうと判断できる。
「どうかね? 最近は?」
老人が清空に尋ねる。
医師の仕事は上手く行っているか、という意味であろう。
清空は「はい、おかげさまで」と微笑みながら答える。
医師になりたての頃から、この老人には何かと助力をしてもらっており、こうやってようやく一人前の医師となっても何かと気に掛けてくれる。
清空にとって、師と呼べるような人物なのだ。
そう言いながら、『く』の字に曲がった腰で清空に向かって歩いて来る。
この老人、こう見えて若い頃には医師をやっていた。
寄る年波には勝てず、医師を引退した後にはこうして薬問屋を開き、後進の医師のちょっとした指導などもやっている。
もっとも、ツルツルに禿げ上がった頭は、本人は『医者をやってた時の名残』と言い張るのだが、誰が見ても毛根の一つも残っているような頭には見えず、この老人の妻であるご内儀さんに聞いたところで『頭を剃っている姿は、ここ二十年は見たことがない』という位なので、公平に見ても年齢による禿頭なのだろうと判断できる。
「どうかね? 最近は?」
老人が清空に尋ねる。
医師の仕事は上手く行っているか、という意味であろう。
清空は「はい、おかげさまで」と微笑みながら答える。
医師になりたての頃から、この老人には何かと助力をしてもらっており、こうやってようやく一人前の医師となっても何かと気に掛けてくれる。
清空にとって、師と呼べるような人物なのだ。