月は紅、空は紫
道元は、重い口を無理矢理に動かすように続けた。
「実は……やこ、という名前さえも本当の名前ではないのだよ」
「……というと?」
道元の切り出した言葉の意図を掴めず、清空が間髪入れずに問い返す。
その質問に、道元は『やはり聞かれてしまったか』という表情を見せたのだが、ここまで話してしまえば隠す意味も無い、という気持ちからか――清空に事情を話し始める。
「やこはな、記憶を無くしておるんじゃ」
「記憶を……というか、やはり道元様の血縁の方ではないのですか?」
血縁であるならば、記憶を失っているとはいえ名前は分かるはずである。
ひょっとすると、記憶を失った血縁者を便宜上で別の名前を付けている、という可能性も皆無ではないだろうが――そうする意味もないだろう。
清空の質問に、道元は渋い顔で小さく頷いた。
しかし、道元がどうして記憶を無くしている――本当の名前さえわからぬやこをこうして薬問屋で働かせているのか。どうしてその事情を話すのに、これほど道元が躊躇しているのかが清空には見当が付かない。
そんな清空に答えるかのように、道元はポツポツとこれまでの経緯を話し始めた。
「実は……やこ、という名前さえも本当の名前ではないのだよ」
「……というと?」
道元の切り出した言葉の意図を掴めず、清空が間髪入れずに問い返す。
その質問に、道元は『やはり聞かれてしまったか』という表情を見せたのだが、ここまで話してしまえば隠す意味も無い、という気持ちからか――清空に事情を話し始める。
「やこはな、記憶を無くしておるんじゃ」
「記憶を……というか、やはり道元様の血縁の方ではないのですか?」
血縁であるならば、記憶を失っているとはいえ名前は分かるはずである。
ひょっとすると、記憶を失った血縁者を便宜上で別の名前を付けている、という可能性も皆無ではないだろうが――そうする意味もないだろう。
清空の質問に、道元は渋い顔で小さく頷いた。
しかし、道元がどうして記憶を無くしている――本当の名前さえわからぬやこをこうして薬問屋で働かせているのか。どうしてその事情を話すのに、これほど道元が躊躇しているのかが清空には見当が付かない。
そんな清空に答えるかのように、道元はポツポツとこれまでの経緯を話し始めた。