月は紅、空は紫
「――はい?」
金造の呼びかけに、女性は二歩ほど先に進んでから応えた。
振り返ったその姿は、金造の声は聞こえているはずなのにどこか上の空のように見えた。
呼びかけに応えたことと、女性の様子があまりに浮世離れしてしまっていることに金造が続ける言葉を出すことを忘れていると、女性の方から先に金造に質問を投げかけてきた。
「何かご用でしょうか? それよりも――ここはどこでしょうか?」
女性からの言葉に、金造は『やはり声をかけなければ良かったか』と少しだけ思った。
心ここにあらず――そんな様子に見えたのは気のせいなのでは無かったのである。
女性は、自分がどこに居るか分からないだけではなく、自分が誰で、どんな名前であるかすら言えない有様であった。
気が付くと河原に居て、宛ても無く歩いている所に――金造が話しかけてきたらしい。
春先ならばまだしも、夏も終わり秋に入るこの季節にこんな人物と自分から関係を持ってしまうとは――自らの好奇心が招いた事態とはいえ、金造は自分の手に余りそうな状況にしばし頭を抱えてしまった。
金造の呼びかけに、女性は二歩ほど先に進んでから応えた。
振り返ったその姿は、金造の声は聞こえているはずなのにどこか上の空のように見えた。
呼びかけに応えたことと、女性の様子があまりに浮世離れしてしまっていることに金造が続ける言葉を出すことを忘れていると、女性の方から先に金造に質問を投げかけてきた。
「何かご用でしょうか? それよりも――ここはどこでしょうか?」
女性からの言葉に、金造は『やはり声をかけなければ良かったか』と少しだけ思った。
心ここにあらず――そんな様子に見えたのは気のせいなのでは無かったのである。
女性は、自分がどこに居るか分からないだけではなく、自分が誰で、どんな名前であるかすら言えない有様であった。
気が付くと河原に居て、宛ても無く歩いている所に――金造が話しかけてきたらしい。
春先ならばまだしも、夏も終わり秋に入るこの季節にこんな人物と自分から関係を持ってしまうとは――自らの好奇心が招いた事態とはいえ、金造は自分の手に余りそうな状況にしばし頭を抱えてしまった。