月は紅、空は紫
 記憶を無くしてしまって、河原を彷徨っていた美女を、一体どうしたら良いものか。
 金造は途方に暮れてしまった。
 女に何を聞いてみても、返ってくる答えは「わからない」だけなのだ。

 自分がどこから来たのか?
 何という名前なのか?
 どこへ行こうとしているのか?

 何も分からなく、気が付くと河原に居たのだそうだ。
 記憶が戻るまで、自分の家に連れて帰ろうかと思いもした。
 金造の連れ合いは、七年前に他界してしまっている。
 子供たちも独立して、別の場所で漁師を営んでおり、金造は一人暮らしである。
 なので、この記憶を無くしている美女を自分の家で面倒を見るのに困るようなことは無い。

 しかし、金造の家に連れて帰ったところで、この女の記憶がいつ戻るとは分からないし、何の解決にもならない。

 やはり、この女の素性を探って、記憶の戻る手助けをするのが先決かと思ったのである。
 何か女の素性を探るための糸口は無いか、そう考えていると――金造は女の持っている壷に気が付いた。

 この壷に、女の素性と記憶を探る手掛かりがあるのではないかと金造は考えた。
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