月は紅、空は紫
 壷の中に入っていたのは、乳白色のドロリとした液体であった。
 豆腐のような色合いで、それよりは艶がある。
 臭いはなく、鼻を近づけるとフンワリと気を落ち着かせるような芳香が出ているようである。

 金造はまたしても困った。
 正直、まだ空っぽの方が良かったのではないかとさえ思った。
 完全に正体不明の物体である。
 毒かもしれないと思うと、迂闊に食べることもできない――。
 と、ここで金造が思いついた。

(ん――? 毒……?)

 これが毒という確証もないが、ひょっとすると逆で、この壷の中身は『薬』ではないか、と思い付いたのである。
 そして、これが薬であれば――行きつけにしている『だるま薬屋』の親父に聞けば何か分かるのではないか――と。

 思い悩んでいる間に、日はすでに山の際から顔を出しており、きっと薬屋の親父たちも起き出していることであろう。
 善は急げ、そう言わんばかりに金造は朝の早くから記憶喪失の美女を連れ立って『だるま薬屋』に訪れたのである。
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