月は紅、空は紫
 金造が美女を連れ立って、『だるま薬屋』に訪れたところで事態は何の解決も見なかった。
 道元に壷の中身を見せてみたのだが、それが薬なのか、はたまた毒なのかは分からない。

 ただ、道元の『これは恐らく薬だろう、私も調べてみるから。それまでこのお嬢さんはうちに居れば良い。きっと同業のうちに居れば身許の手掛かりも掴めるよ』という一言によって、記憶喪失の美女の件は金造にとっては一件落着と相成った。
 
――後は道元に任せれば、この女のことは何とかしてくれるだろう、と。

 まあ、美女と一つ屋根の下で生活できるかも、という期待がまるで無かったわけでもないが、もう枯れるという言葉が相応しい年齢に到達しそうな金造である。
 美女の記憶を取り戻させるという厄介ごとを引き受けるよりは、今まで通りの一人暮らしでも平穏の生活を望むような形となった。

 美女の面倒を見ることにした道元夫妻は、『名前が無いと色々と不便だろう』ということで、この娘に『やこ』という名前を付けた。
 『艶冶(えんや)』な『壷を持った娘』で『冶壷(やこ)』である。

 こうして、美女は道元の店で手伝いをしながら暮らすことになったのだ――。
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