素直になれない
正直言って、仕事は全然集中できなかった。
何かあればスマホが鳴るかもと思いながら、
でも、すべき仕事はこなしていく。
今日は定時に帰る!と決意して、
少しスピードアップして、
無事定時少し過ぎに会社を出た。
急いで蒼也の居る病院へ向かった。
病室に行くと、扉が開いたまま。
蒼也の体につながっていた線は少なくなり、
蒼也のお母さんや、他の方数名と話していた。
コンコン
「こんばんは。」
わたしの声に蒼也のお母さんが
一番に反応をしてくれた。
「あ!紫さん!お仕事お疲れ様。
入って入って!
蒼也、紫さんきてくれたわよ!
紫さん、わたし達は帰るから
ゆっくりしていってね!」
「あ、はい。すみません。」
そそくさと、
蒼也のお母さん達は帰って行った。
「…蒼也、…えっと、」
話したいことはたくさんあるのに
言葉が出てこない。
「ゆ、かり。こっち。」
と手を伸ばしてきた蒼也。
恐る恐る近付くと腕を引かれ蒼也の胸の中。
「…ったー、」
「あ!ごめん!離れるから!」
そこら中怪我だらけの
蒼也に抱きしめられるのは気が引けた。
現に痛がっているし、と思ったけど
「無理。」
と更に力を込めてきた。
「蒼也、ごめんね。」
「なんでお前が謝るんだよ。」
「蒼也が事故に遭ったって聞いて
すっごく後悔した。
何ですぐ謝らなかったんだろって
蒼也も仕事なのに、
わたしの気持ちばっかり押し付けちゃって
本当にごめんなさい。」
「…それはもういい。」
何か言いたげな様子の蒼也。
「蒼也、遅くなっちゃったけど
お誕生日おめでとう!」
「あ、うん。」
と、目を逸らす。
「蒼也照れてるでしょ!」
「照れてないから。
なあ、俺のプレゼント買った?」
「まだだよ、
今年は一緒に選ぼうって言ってたから。」
「今年のプレゼント、俺が決めていい?」
珍しい。
「何?いいよ。
わたしが手に入られるものであれば!」
「紫。」