水月夜

出会い


真っ白なキャンバスに、ベットリとした暗い色の絵の具がつけられる。


筆を手にしている女は、無慈悲な表情で口をつぐんだままサラサラと絵を描いていく。


そして、そのキャンバスに白色が消えて絵が完成したとき、女の手から筆が落ちた。


落ちた筆は、先についた絵の具を少しだけ飛び散らせ、床を汚していく。


その間に女が顔をゆがめて勢いよく床に倒れた。


苦しそうに首を引っかき、まるで横倒しになったロボットのように足をバタバタと動かしている。


だが、女の抵抗はほんのわずかだった。


床に倒れた数十秒後、女は目を見開いて意識を手放した。


そこから女が息を引き取るのに時間はかからなかった……。

***

眠い、とてつもなく眠い。


鉛のような体を渋々動かして自分の席から立ちあがると、親友の大坪 直美(おおつぼ なおみ)がこちらにやってきた。


「梨沙(りさ)ー、早くー!」


「ちょっと待ってて……」


「梨沙ってば! 早くしてってば! 私の気持ち、わかってよ!」


それはわかってるよ。
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