水月夜
びっくりした。


同じグループのメンバーではない千尋が私に『一緒に帰ろう』と誘ってくるなんて。


直美だったら、なにも言わず私の横を通りすぎていくだろう。


直美たちに比べて千尋は優しいな。


「うん、いいよ。ちょっと待ってて」


オッケーサインを出した千尋の姿を確認し、急いで自分の席にあるカバンに机の中のものをすべて詰め込み、駆け足で教室を出る。


少しだけ息を整えて千尋のもとに着いたあと、心の底からおかしそうに千尋が笑った。


「梨沙、行動が早いね。俊敏だよ。私も梨沙みたいに素早かったら同じことができてただろうね。だけど私が足速かったらおかしいか」


その言葉に私は苦笑いを浮かべる。


たしかにおかしい。


千尋が素早かったらちょっと変だと思う。


でも、いいんだよ。


たとえ足が速くなくてもそれがすべてじゃないし、素早く行動することが一番大事なことではないだから。


直美は私とは違う考えを持っているかもしれないけど。


「足なんて速くないよ。ただ中学時代に運動部に入ってたから鍛えてただけだよ」
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