水月夜
クラスメイト全員がそれぞれ自分の席に座れたが、ひとつだけ席が空いていた。


空いているのは豊洲さんの席。


体調不良かな。


そう思った直後、教卓の前にやってきた先生がボソッと「ホームルームをはじめる前に、みんなに悲しいお知らせがある」と告げた。


悲しいお知らせ。


なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする。


ぶるっと身を震わせた私を完全にスルーして、暗い表情を見せながら、先生はこう言った。


「昨日の夜……豊洲弥生が山奥で亡くなった」


豊洲さんが、山奥で死んだ?


鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。


それは千尋も同じだったみたいで、口をポカンと開けて目をパチパチとしばたたかせていた。


他のクラスメイトも呆然としている。


だが、教室に悲しみが包まれたなかでただひとりほくそ笑んでいるクラスメイトがいた。


率先していじめをしていた直美だ。


沈黙に支配された空気の中で笑っている直美は、とてもではないが不気味だった。
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