水月夜

☆☆☆

教室で、豊洲さんが死んだという話を聞いたその日の昼休み。


すでに昼食を食べ終えた私と千尋は、職員室までの道を歩いていた。


歩幅が小さく、ときどき床を蹴りあげる仕草を見せる千尋の横顔をそっと覗き込む。


朝のホームルームのときよりも顔色が悪い。


今にも倒れそうな顔に胸が痛くなる。


「千尋、職員室に行く前に保健室に寄ってく? 顔色悪いよ?」


千尋の背中を優しくさすると、千尋がびくっと肩を震わせてこちらを見た。


それと同時に千尋の体がピタッと止まる。


なに?


疑問に思って眉間にシワを寄せるけれど、千尋はなにも言わず、視線をそらして再び歩きだした。


今日の千尋は様子がおかしい。


いや、今日だけじゃなくて最近ずっと様子おかしいけど、今日はいつもより顔が怖い。


まるで悪霊に取り憑かれた人みたい。


一瞬だけ寒さに襲われるが、目の前に職員室のプレートがあったので体温が一気に上がった。


いつの間に職員室の前まで来たんだろう。
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