水月夜
職員室に行く直前、私は教室にいた千尋に声をかけられた。


『梨沙、ちょっと付き合ってくれない?』


『どこに行くの?』


『職員室。担任の先生に話したいことがあるから』


数分前の会話が頭の中でよみがえってくる。


たぶん千尋は豊洲さんについて先生に聞きたかったんだと思う。


豊洲さんについての話を聞いてから、クラス代表として葬儀に参列すると話すつもりだっただろう。


でも、私がそうさせなかったのには理由があった。


これ以上千尋を苦しめたくなかったから。


友達の苦しむ姿を見たくなかった。


そのために私ができることといったら、豊洲さんの葬儀に千尋の代わりに参列するしかない。


ぐるぐると考える私に気づくことなく、先生が驚いた顔で距離を近づけた。


「柏木……本気で言ってるのか?」


「はい、本気です」


「えぇっ、梨沙⁉︎」


決意の固まった私の表情と言葉に大声を張りあげる千尋。


相当混乱しているようだ。


混乱させてごめんね、千尋。


でも、わかって。
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