水月夜
「えっ、どうしたの⁉︎ もしかして私、なにか変なこと言った?」


今にも涙が出てきそうな表情を見て、そんなことを言うことしかできない。


この状況を他の生徒たちが見たらきっと誤解されてしまう。


私が雨宮くんを悲しくさせたことになりそう。


他の生徒たちがここに来ない間になんとか表情の理由を説明してもらわないと。


焦りを隠しきれずにオロオロする私に、雨宮くんが左右に首を振った。


「……違う。俺はただ教室に忘れものを取りにきただけだけど、ここを曲がろうとしたときに柏木がいたから柏木と一緒に帰ろうかと思ったんだ。だけどまさか柏木を怖がらせる結果になるなんて思ってなかった」


どうやら自分の行動を反省していたようだ。


ということは、私はなにも悪いことはしてないんだよね。


よかった。


「怖くはなかったよ! 雨宮くんだって知ってほっとした!」


慌てて満面の笑みを浮かべると、雨宮くんの顔が少しだけ赤くなった。


ボソッと消え入るような声も聞こえてくる。


「そうか。ならよかった……」
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