水月夜
頭上に大量のクエスチョンマークを浮かべて首をかしげる私に、雨宮くんが嬉しそうに駆け寄る。


「それだよ、それ! 俺が忘れたものはそれだ!」


「えっ……」


本当にこれが雨宮くんの忘れもの?


見つけた古い腕時計が雨宮くんの探していたものだとは思ってなかった。


私の手の中にある腕時計を雨宮くんが手にしたところで言葉をしぼりだす。


「ず、ずいぶん古そうだね」


「ずいぶんっていうか、すごく古いけどな。これは親父からもらったお守りのようなものなんだ。これを持ってここの高校を受験したら合格したし」


「へぇ……」


お守りなんだ、この腕時計。


本当に腕にはめて使うにはちょっと古すぎる気がするからなにも言わないけど。


「とにかく、お守りが見つかってよかった。柏木のおかげだよ、サンキュー」


雨宮くんがニコッと目を細めて満面の笑みを浮かべる。


それと同時に、雨宮くんは私の頭を優しく撫でた。


自分に向けられた笑顔と頭に置かれた手のぬくもりに思わずドキッとした。
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