水月夜
隣の教室から私たちが覗いていることにまったく気づくことなく、直美は話を続ける。


「どんなことがあったかって? えー、知りたい? 知りたいなら教えてあげる」


もったいぶる口調で話している。


親友の私でさえ、こんな口調でしゃべるところ見たことない。


「私が好きだって言った先輩と連絡先交換したしさ、友達いっぱいいるんだよ。最高じゃない?」


『好きだって言った先輩』。


それは間違いなく緒方先輩のことだろう。


連絡先を交換したことがよほど嬉しかったのか。


そこまでは冷静に聞けた。


だけど、次の言葉が気になる。


『友達いっぱいいるんだよ』


本当に直美の友達はたくさんいるだろうか。


親友である私、ヒロエ、紀子を友達だと思っているなら、友達がいないとは言えない。


でも、それ以外のクラスメイトは直美のことを友達だとは思ってないはずだ。


ぐるぐると考える私を尻目に、直美の話はまだ続いていく。


「あー。でもさ、友達だと呼ぶべき人がいないんだよねー」
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