水月夜
天然なのか、それともわざと気づかないフリをしているのか。


先輩の反応がわざとらしいと感じたのか、雨宮くんが眉間にシワを寄せて不満そうな顔をした。


「……なんで俺の名前を知ってるんですか」


ぶすっとした雨宮くんの表情にはいつもの落ち着いた雰囲気がなく、少しの焦りが隠れている。


そのことに緒方先輩が気づいているのかどうかはわからないけど。


焦りを隠しきれない雨宮くんの二度目の質問に対し、緒方先輩はニコッと微笑んでこう答えた。


「ここの教室に寄るときは少なくとも数人の名前は把握しておかないとね。柏木ちゃんと大坪さんの名前はもともと知ってたけど」


「……そうですか」


少しだけ安堵した表情の雨宮くん。


だけど焦りは若干残っている。


どうして関わらないはずの子の名前をもとから知ってたんだ。


安堵した雨宮くんの表情からはそんな気持ちが聞こえてきた。


と、そのとき。


スマホをいじっていた直美がため息をつきながらこちらに向かってきた。
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