水月夜
だよね。


自分が感情的になっている場合ではないんだ。


今は緒方先輩の話を最後まで聞くべきなんだ。


うつむいていた顔を持ちあげ、視界に緒方先輩の姿が映ったと同時に口を開ける。


「……ごめんなさい、先輩。最後まで話を聞くので続きを話してください」


話の続きをうながす私の声はか細く、はかないものだった。


しかし、私たち以外誰もいないせいもあってか、私の声は意外にも大きく響いた。


その証拠は緒方先輩の少しびっくりした表情だ。


先輩はしばらく驚きの表情を見せたあと我に返って話を続けた。


「大坪さんは嫌いとは思ってないよ。ただちょっと俺のことを優先しすぎて、他の女子が勘違いしちゃうかもしれないんだよね」


「…………」


「だから、柏木ちゃんに雨宮くん。大坪さんにこれ以上俺と距離を縮めないでほしいって言ってくれないかな?」


今以上に距離を縮めないでほしい、か。


そう思うのは、たぶん直美が自分のファンの女子たちからいじめられるのを恐れているからかもしれない。
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