水月夜
わかるよ。


もし私が先輩の立場だったら、同じ方法を選んで距離をおくし。


先輩の気持ちはわかるよ。


心の中の思いを緒方先輩に言おうとしたとき、雨宮くんが緒方先輩に言葉をぶつけた。


「先輩、さっき大坪のことを異性として好きじゃないって言いましたよね? なぜそれを大坪本人の前で言おうとしないんですか?」


「……っ」


雨宮くんの鋭い指摘にさっと目をそらして視線を床に落とす緒方先輩。


よく考えれば今の雨宮くんの言葉はもっともだ。


直美を恋愛的な意味で好きじゃないと私と雨宮くんに言うのなら、どうして直美本人に直接言おうとしないのか。


心の中に疑問が生まれる私と鋭い目線を向けている雨宮くんを軽くスルーして、緒方先輩が焦りを隠しきれない表情でこう答えた。


「それは君たちには関係ないことでしょ。とにかく大坪さんに今俺が言ったこと伝えて」


「はぁ……」


スルーされたことに呆然としたせいで言葉にならない返事を返してしまい、緒方先輩は私たちを残して化学室を出ていった。
< 137 / 425 >

この作品をシェア

pagetop