水月夜
後輩に気を遣っているという話は本当だ。


いつかは忘れてしまったけど、授業で使おうとしてた資料を後輩の子たちに譲っているのを見た。


その姿を見て、『優しい人だな』とは思ったが、目撃した当初は資料を後輩たちに譲った緒方先輩を意識してなかった。


過去に見た記憶をたどりながらしゃべったあと、机に突っ伏していた直美が顔をあげた。


「そうだよね! 優しい先輩が私を嫌いになるわけないよね! ってことは、緒方先輩の彼女になれる可能性はあるよね?」


「うん。でも両想いってこともあるだろうから、もう彼女になれるんじゃない?」


嘘だよ、嘘、嘘。


今の言葉は全部嘘だよ。


すぐに言葉を訂正したいけど、こちらに目を向ける直美を見たら本当のことなんて言えない。


自分の言葉に苦しむ私をスルーして、直美が目をキラキラと輝かせる。


「えっ、マジで⁉︎ 本当⁉︎ マジで嬉しい! 先輩の彼女っていうポジションに一番近いのが私だってことだよね?」
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