水月夜
直美の笑顔を見ていると、私の言葉を本音としてとらえたようだ。


どうしよう。


本当は緒方先輩の気持ちを知っているから、私が言った言葉は嘘なのに。


ぐるぐる悩んでいると、真剣な表情をした千尋が早歩きでこちらにやってきた。


「大坪さん。志賀さんと遊佐さんがいないからって梨沙に自分勝手な言葉言うのやめてよ。見てて嫌な気分になる」


相手の心を思いっきりえぐる口調に、ちょっと怒っているように見える顔。


そんな顔をした千尋の言葉で、直美はピクッと眉を動かして素早く反応した。


自分を敵扱いする生徒には容赦ない仕打ちをする直美が、ここでスルーするわけがない。


顔を私から千尋のほうに向け、背筋が寒くなるような満面の笑みを浮かべて千尋に尋ねる。


「猪狩、今なんて言った? 今、梨沙と楽しく会話してたところなの。邪魔するんなら出てって」


冷たい眼差しを感じる直美を見て、普通なら怖くなってあとずさるはずだが、千尋は怖がるどころか全然怖がらない。
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