水月夜

☆☆☆

昼休みが終わり、5限の授業がはじまる数分前になった。


朝のホームルーム前に直美に『もし豊洲と同じ目に遭いたいなら体育館倉庫に来いよ』と言われた千尋は、昼休みに教室を出たきり帰ってこない。


千尋だけでなく、ホームルームギリギリに登校してきたヒロエと紀子も教室にいない。


『体育館倉庫に来い』と言った直美は教室にいて、髪をクシでとかしている。


かなり上機嫌で、鼻歌まで歌っている。


この様子を見て、私の近くにやってきた雨宮くんが不思議そうな顔で私に話しかけてきた。


「大坪、いったいなにがあったんだ? やけに機嫌がいいな」


5限の授業前にいきなり雨宮くんがやってきたことに内心驚きながらも、冷静な口調で答える。


「直美は緒方先輩の彼女の座に一番近いから彼女になれるって言ったら、大喜びしちゃって。たぶん本気で緒方先輩の彼女になろうと思ってるよ」


「なんで大坪に本当のこと言わないんだよ」


「だって、本当のこと言ったら機嫌を悪くして私にやつあたりしたり私をいじめるんじゃないかと思って……」
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