水月夜
私のクラスの隣の空き教室に顔を覗かせたとき、雨宮くんに気づかれないようにアプリで直美の声を録音したのだ。


この音声録音アプリは中学時代、自分を守るためにインストールしたが、全然使っていなかった。


そろそろアプリを消そうと思ったときに直美のクラス全員の悪口が聞こえたから使ったんだ。


役立たずだと思っていたこのアプリが役に立つとは思わなかった。


『ヒロエと紀子も嫌いだけど、梨沙も嫌なんだよね。私の見えないところでクラスでの好感度上げようとしてるし。親友だけど空気読めないし』


『同じグループのやつらだけじゃなくて、他のクラスメイト全員ウザい。言いたいことを私の前では言わないし、私のこと避けようとするし。とくにウザいと思ったのはあいつ。前に私につかみかかろうとしたやつ』


『まぁ、そいつが死んでくれて助かった。そいつがいなくなったおかげで楽しく過ごせるし』


『あいつ、山奥で死んでたって! あははっ、超傑作でしょ? 自業自得だっつーの!』


それらの言葉が聞こえた直後、録音モードは終了していた。


このセリフを聞いたのはもう数日前なのに、録音した声を聞いても涙が出そうになる。


それをこらえてスマホをポケットに入れた。


「これらを聞いたときは信じられなかった。私たちのことそんなふうに思ってたなんてって。本当は言いたくないけど……私、直美のことがわからない。なに考えてるのかわからないよ」
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