水月夜
驚きを隠しきれない紀子の言葉にはっとして、首を横に振った。


「な、なんでもないよ」


この会話の相手が直美だったら、暴力を受けたことだろう。


相手がヒロエと紀子でよかった。


胸を撫でおろしたと同時に、紀子が表情を戻してヒロエに話を振った。


「ヒロエ、それ本当なの?」


「本当だよ。私、この目で見たからね。わがままな女王様が緒方先輩に『付き合えない』って言われたところ」


どうやらヒロエは、本当に直美のフラれ現場を目撃したらしい。


自分の片目を指さして必死にそう言う姿から、嘘くさいオーラは感じられない。


そのことを紀子も感じ取ったのか、不敵な笑みを浮かべた。


「へぇ〜。クラス内では好き勝手に振る舞う女王様の直美が、好きな人にフラれたなんてね」


直美が緒方先輩にフラれたことが嬉しいようだ。


「まぁ、わがままな女王様がフラれるのは当然だよね。好き勝手に振る舞えるからって、努力が報われるわけがないのに」
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