水月夜
だが、泣けなかった。


あまりにもマリコさんがかわいそうだったから。


「マリコと別れて、専門学校を卒業したあと、急にマリコが田舎に移り住むって言いだしたんだ。画家になる夢を叶えたいからだって言ってたから、俺はマリコを止めなかった」


「…………」


「でも、本当は止めればよかったのかな。ここに移り住んでも、マリコの描いた絵は誰にも認めてもらえなくて……その悔しさと苦しみからマリコが死んだから」


「…………」


マリコさんがどんなふうに死んだのか、元恋人であった久保さんもわからない……。


だけど、マリコさんを強く想っていたのはたしかのようだ。
< 376 / 425 >

この作品をシェア

pagetop