水月夜
そうか。


だから久保さんは、私に『水月夜』を渡したんだ……。


「じゃあ、海外旅行に行ったお土産っていうのは……」


「ごめん、嘘だよ。そうでも言わないと、信じてもらえないだろうと思って」


「…………」


「悪気はなかったんだ。ただ俺は、自分に取り憑いた呪いから逃げようとして……」


久保さんがそこまで言ったところで、ずっと黙って聞いていた雨宮くんが久保さんの胸ぐらを強く掴んだ。


「自分に取り憑いた呪いから逃げたかった……? 梨沙の気持ちなどそっちのけに?」


雨宮くんの声に久保さんが慌てて手を振った。
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