水月夜
数十メートル先の金網のフェンスから女子の甲高い声が聞こえた。


耳をふさぎたい気分だけど、直美の呼吸が整うまで動けないし、直美に『耳ふさがないで‼︎』と怒られそうなのでふさげない。


数秒かかってやっとで直美が呼吸を整え、一緒に歩こうと足を進めた。


だが、数歩歩いたとき、向こうからふたりの女子生徒がやってきた。


ふたりの顔は見えないけど、誰なのかという確信はある。


たぶん志賀(しが)ヒロエと遊佐 紀子(ゆさ のりこ)だろう。


走ってやってきたふたりの姿を見て、やっぱり、と思った。


こちらにやってきたのは、やはりヒロエと紀子だった。


「もー、梨沙に直美! 早くしないと緒方(おがた)先輩が行っちゃうよ?」


「わかってるってば。でも梨沙が途中でモタモタしたから遅れそうなの」


呆れ口調のヒロエに、直美が目を細くしてヒロエを睨む。


ちなみに、ヒロエが言っていた“緒方先輩”というのは、直美の好きな先輩のことだ。


「そっか。梨沙、なんでモタモタするの?」


「え、えっと……」


紀子に突然話を振られて体が震える。
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