水月夜
私たちを恐れることなく直美にそう言葉をぶつけてきたのは、豊洲 弥生(とよす やよい)だ。


このクラスにカーストがあるとすれば中の下くらいの子で、学級委員の千尋と仲がいい。


見た目はクラスの女子の中でも一番地味で、直美とは対照的な存在。


とはいえ千尋と仲よしなので、ひとりぼっちというわけではない。


私は彼女と話したことはないけど、素直ですごくいい子だと思う。


そんな豊洲さんの言葉にピクッと眉を動かし、ゆっくりと振り向く直美。


自分の視界に豊洲さんが映ったと理解した途端に豊洲さんのほうに歩み寄る。


「ねぇ豊洲、今なんて言った? 話に夢中になってたから聞こえなかったんだけど」


口調と表情はおだやかなのに、目がまったく笑っていない。


クラスの女王様的存在の直美にこんな表情を向けられたら、普通は黙り込むだろう。


だが、直美に視線を向けられても豊洲さんの姿勢は崩れなかった。


「だから、私の机を勝手に使わないでよ。これから勉強したいからどいてよ」


拳を握りしめながら鋭い目つきで直美を睨む豊洲さん。
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