水月夜
紀子が私に話を振ってくるとは思ってなくて、変な声をあげてしまう。


ていうか、私がモタモタしていた?


なぜ直美は、遅れた理由を私がモタモタしていたせいだとヒロエと紀子に説明したの?


私はモタモタしていなかった。


直美は私に罪を押しつけているの?


もしそうだったら、本当に親友と呼び合える仲なのかと疑ってしまう。


目をそらす私に、紀子が笑って私の肩を軽く叩いた。


「梨沙、体ガチガチ。もっとやわらかくすればいいのに。相手が私たちだからって、ガチガチしなくていいじゃん」


そんなこと言われても。


本当の理由は違うから『違う』と言いたいけど、『違う』と言ったら直美に怒られる。


言えない。


どうしても言いたいことがあるのに、いざ本人を目の前にすると、口が思うように動かない。


誰かに助けを求めたいけど、このタイミングで誰かが来るわけがない。


仲よくなった人を間違えたのかな。


ため息が出そうになった直後、直美がおかしそうに笑った。


「ヒロエに紀子、今私が言ったの冗談だってば。なに本気にしてんの?」


えっ、冗談?
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