水月夜
「幼稚園や小学生のときには、夏祭りで取った金魚を水槽に入れてペットにしてましたけど」


「あー、俺も昔金魚飼ってたな。夏祭りじゃなくてペットショップで買った金魚だけど、俺がめんどくさがって数日で死んじゃったよ。そのとき妹がマジ泣きしてたの覚えてる」


へぇ、緒方先輩も金魚飼ってたんだ。


なんか親近感がわいてきた。


親友が想いを寄せている相手とはいえ、話をして同じ経験があったと知ると嬉しくなる。


ニコッと笑顔を浮かべ、緒方先輩の顔を覗き込むようにこう言った。


「そうなんですか。先輩の妹さんは家族思いでいい子ですね! そんな妹さんがいる先輩が羨ましいです」


そう言った瞬間、笑顔だった緒方先輩が顔をそっとそらした。


言ってはいけないことを言ったのかな。


首をかしげて先輩の顔を横から見てみると、先輩の頬が少しだけ赤くなっていた。


なんで顔が赤いんだろう。


不思議に思いながらも、気づかないフリをする。


再び前に向き直ったとき、50メートル先に学校の校舎があるのが見えた。
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