水月夜
自然と足が速くなり、自分でも止められないくらいになってしまう。


「ごめんなさい、先輩。私のクラス、教室でやらなければならないことがあるので急ぎますね」


うわの空の先輩の顔色をスルーしながら嘘をつき、さらに足を速めた。


機敏な動きで靴をはきかえて教室に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。


黒板の前で誰かが数人の女子に蹴られていた。


その“数人の女子”の正体は、教室に入ってすぐに理解した。


「昨日はよくも私に刃向かったな! 死ねよ、お前はこのクラスのお邪魔虫なんだよ‼︎」


「ちょっと直美、死んじゃったら終わりだよ。こうやって蹴ることもできなくなるよ?」


「そうそう。しばらくはこいつを蹴るのを楽しんだほうがいいんじゃない?」


蹴っていたのは直美とヒロエと紀子だった。


でも、3人が相手にしてるのが誰なのかまではわからない。


止めていた足を再び動かし、黒板の真正面に体を向けた。


それでも蹴られているクラスメイトの顔は見えないが、制服から女子だということがわかる。
< 56 / 425 >

この作品をシェア

pagetop