水月夜
ゲシゲシと容赦なく蹴っている3人の発言からして、蹴られているのは豊洲さんだろう。


その場から動けないでいる私に、コソッと誰かが耳打ちをしてきた。


「やっとで来たか、柏木」


「あ、雨宮くん……」


声の主は雨宮くんだった。


『やっとで来たか』と言っていたけど、私が教室に入ったとき雨宮くんの姿はなかった。


いったいどこにいたんだろう。


今の気持ちを言葉にするのに、そんなに時間はかからなかった。


「雨宮くん、いったいどこにいたの?」


「俺か? さっきまでトイレに行ってたけど。にしても大坪、よほど豊洲に恨みを抱いてたみたいだな」


私の質問にさらっと答え、さりげなく今の状況を確認した雨宮くん。


やっぱり直美たちに蹴られているのは豊洲さんなんだ。


拳をきつく握りしめる私に目を向けたあと、雨宮くんは言葉を続けた。


「俺が教室に入ったときは、大坪が豊洲に話しかけてるだけだったんだ。だけど俺がトイレに行ってた間にこうなったようだな」
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