水月夜
逆らったらどうなるか。


それを小学校や中学校で学習した私は、用事があるとき以外は直美に話しかけないようにした。


だけどそれは、私と直美にとってメリットになっていたのだろうか。


今となってはもうわからないけど。


カバンを握る手の力が強くなるのを感じたと同時に、焦った様子で雨宮くんが顔を近づけてコソッと耳打ちした。


「どうするんだよ、柏木。早く大坪たちを止めないと豊洲が大変なことになるぞ」


止めても自分のメリットは少ない。


豊洲さんを助けるために割り込んだら、直美たち3人の次のターゲットになってしまう。


助けたい。


だけど助けたことがきっかけでいじめられたくはない。


なかなか答えを出さない私を見て、雨宮くんは目をそらし、スタスタと直美たちのほうへと歩いていった。


「あっ……」


声を出したときにはもう遅かった。


豊洲さんを蹴る直美のところに、雨宮くんが険しい表情で睨みながら歩み寄った。


ダメだよ、雨宮くん。


無理やり中断させたら直美の機嫌が悪くなるよ。
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