水月夜
心の中にたまる気持ちを言葉にできずに金魚のように口をパクパクさせる私を尻目に、雨宮くんが口を開けた。
「大坪。どうして豊洲を蹴るんだよ」
ワントーン声を低くさせた雨宮くんに怯えることなく、直美はつんとした顔で答える。
「どうしてって、昨日豊洲が私にひどいこと言ったからよ」
「ひどいこと? それってただ豊洲が自分の席で勉強したいからどいてって言っただけだろ」
「雨宮くんにとっての『どいて』は傷つかない言葉かもしれないけど、私にとって『どいて』は私の存在を否定するようなものなの」
雨宮くんと直美はお互いに譲ることのない言動をするので、見ているこっちがハラハラする。
さっきまで直美と一緒になって豊洲さんを蹴っていたヒロエと紀子は、雨宮くんと直美の会話に入ろうとしない。
なぜかふたりは苦しそうな表情をしているけど、とくにヒロエのほうが顔色が悪そうだ。
蹴られていた豊洲さんは直美が雨宮くんと会話している間に立ちあがり、制服についた汚れを手で払った。
そして、汚れがほとんど取れたところで私のところへ歩み寄ってくる。
「大坪。どうして豊洲を蹴るんだよ」
ワントーン声を低くさせた雨宮くんに怯えることなく、直美はつんとした顔で答える。
「どうしてって、昨日豊洲が私にひどいこと言ったからよ」
「ひどいこと? それってただ豊洲が自分の席で勉強したいからどいてって言っただけだろ」
「雨宮くんにとっての『どいて』は傷つかない言葉かもしれないけど、私にとって『どいて』は私の存在を否定するようなものなの」
雨宮くんと直美はお互いに譲ることのない言動をするので、見ているこっちがハラハラする。
さっきまで直美と一緒になって豊洲さんを蹴っていたヒロエと紀子は、雨宮くんと直美の会話に入ろうとしない。
なぜかふたりは苦しそうな表情をしているけど、とくにヒロエのほうが顔色が悪そうだ。
蹴られていた豊洲さんは直美が雨宮くんと会話している間に立ちあがり、制服についた汚れを手で払った。
そして、汚れがほとんど取れたところで私のところへ歩み寄ってくる。