水月夜

☆☆☆

「先生、どうですか?」


「うーん。脇腹や背中に蹴られた跡と膝にすりむいた跡があるけど、問題ないわ」


保健室に連れていき、豊洲さんの様子を見た養護教諭の先生が少しうなり声をあげたあと、ニッコリと笑顔を見せた。


ここに来る途中に私が豊洲さんの膝にすりむいた跡があることに気づき、手当てしてもらおうと思い、蹴られたところに加えて膝も先生に見てもらった。


先生の言葉を聞いた豊洲さんはほっと胸を撫でおろし、くるっとこちらに体を向けた。


「ありがとう、柏木さんに雨宮くん。私はもう大丈夫だからふたりは教室に戻っていいよ」


そう言ったあと、豊洲さんは私と雨宮くんにやわらかく微笑んだ。


昨日直美に『どいてよ』と言っていたときは怒った目をしていたから怖かったけど、豊洲さんもこんなふうに笑うこともあるんだ。


心の中では豊洲さんに驚きながらも、表情には出さないようにしようと意識した。


「そんな……豊洲さんを保健室に残すことなんてできないよ。それに豊洲さんが心配っていうか……」
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