水月夜
慌てて両手を顔の前で振って、焦った表情を豊洲さんに見せる。


すると豊洲さんは優しげな眼差しで私をじっと見つめてきた。


同じクラスとはいえほとんど話したことがない女子にこんな目で見られるのははじめてだから、なんだかくすぐったい。


「な、なに?」


声がちょっとだけうわずったような気がする。


「柏木さんって優しいよね」


「へ……?」


いきなりなに言ってるの豊洲さんは。


保健室で話す会話ですか、それ。


ツッコミを入れてしまいそうになりつつ、グッとこらえた。


「ど、どうしてそう思うの?」


自分の声がまたうわずった気がしたけど、必死で気づかないフリをする。


少し焦っている私に、豊洲さんは優しげな眼差しを向けたままこう答えた。


「だって、柏木さんって大坪さんたちと同じグループにいるでしょ? 大坪さんたちのグループにいてもそれ以外のところでも気を遣ってるの見てるもん」


気を遣ってる?


私が、気を遣ってる?


誰に気を遣ってるの?
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