水月夜
恥ずかしい、穴があったら入りたい。


顔を両手で隠したい衝動に駆られて、雨宮くんと豊洲さんから視線をそらした。


雨宮くんの言葉に対してなにも言えないでいると、近くから先生の声がした。


「先生、今から出張に行かなきゃいけないの。豊洲さん、とりあえず応急処置はしておいたから、しばらくは安静にね。柏木さんに雨宮くん、あとは頼んだわ」


慌てた様子の声が耳に届いて声のしたほうに目を向けたが、先生は白衣を着たまま保健室を出ていってしまった。


呆然とする私に、豊洲さんがクスッとおかしそうに笑った。


「ふふっ、柏木さんも呆然とすることがあるんだ。柏木さんは明るいイメージがあるから、てっきりそんなことしないと思ったんだけど……びっくり」


自然と顔が熱くなるのを感じた。


でも、豊洲さんから明るいと思われていたことに内心嬉しくもあった。


グループの中では一番目立たないタイプだから周りには浮いて見えるんじゃないかって思ったのだ。


よかった、豊洲さんに明るいと思われていて。


仮に私のことを明るいと思っているのが豊洲さんだけだとしても嬉しい。
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