水月夜
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帰りのホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、クラスメイトたちが一斉に教室をあとにしていった。
結局、千尋は学校に来なかった。
担任の先生の話では、千尋は体調不良だと言っていた。
しかし、私はどうしても納得がいかないのだ。
たとえ感染症やインフルエンザにかかっても、千尋はマスクをしながら登校していた。
流行した病気にかかったときはさすがに保健室で休まされていたが、基本的には学校に来ていた。
千尋が体調を崩しても学校に来ることを知っているのは、たぶん私と豊洲さんだけ。
豊洲さんが心配そうな顔で千尋を見ていたときがあった。
その日は凍えるほど寒かった真冬日で、千尋は頬を赤くさせて、自分の輪郭にフィットしたマスクを着用していた。
『大丈夫なの? 熱あるんじゃないの?』
少し慌てた表情を見せる豊洲さんに、千尋はこう言った。
『大丈夫だって。私はいつもどおりだよ』
どう見てもいつもどおりではない顔色をしてても、千尋は『大丈夫』という言葉を繰り返していた。