水月夜
「……どうしたの?」


首をかしげて疑問を投げかけると、直美は荒くなった息を整えながら私の持ちものに視線を向けた。


私が持ってるものの中に目的のものを見つけたらしく、それを私から奪い取った。


「ありがと、梨沙! 私、このカバンがほしかったんだ! サンキュー! じゃあね!」


荒い息をしていたのがまるで嘘のように、直美はハイテンションで走り去っていった。


いったいなんだったんだ。


私が持ってたものがほしかっただけだったのか。


なんだ、ちょっと期待はずれだったな。


まぁいいか。


直美が来たときに止めていた足を動かそうとしたが、さっきまで持っていたキーホルダーつきのカバンがないことに気づいた。


あれ?


どうしてキーホルダーつきのカバンがないの?


そう思ったとき、はっと目を見開いた。


まさか……!


『このカバンがほしかったんだよね!』


まさか直美が奪い取ったのはキーホルダーがついたカバン⁉︎


でもいいか。


直美も心がないわけじゃないから、私の代わりに職員室に落としものとして届けにいったのかも。


そう思いながら、私は東側に向きを変えて帰った。
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