水月夜
おそるおそる問いかけると、千尋の顔色がさっと変わった。


千尋にとって聞いてはいけない質問だったのかもしれない。


先週体調不良だと聞いて違和感を感じたが、翌日からは普通に登校してきていつもどおりに振る舞っていたので、なかなか聞けなかったのだ。


いくら聞きたかったことだとしても、千尋の今の表情を見ていると心が痛くなりそうだ。


だから私は、慌てて言葉をつけ加えた。


「あっ、べ、べつに言いたくないなら言わなくてもいいよ。無理やり聞こうとは思ってないし!」


これ以上友達が苦しそうな顔をしているのを見るのは嫌なんだ。


って、『苦しそうな顔』?


今、千尋は苦しそうな顔をしているの?


表情が変わったことには気づいたが、まさか苦しそうな顔をしていたとは思わなかった。


苦しそうな表情なら、余計に胸が痛くなる。


自分が言いだしたことなのに、なぜか勝手に胸がキュッとしめつけられるみたいに痛くなった。


お願いだから、休んでた理由を言わないで。


私に理由を言わなくてもいいよ。
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